より明確な志願理由に向けて
大学入試で志願理由や小論文、入学後の展望等を書くとき、高校生が普通に授業を受けているだけでは、視点が大学で学ぶ人として準備不足と見られてしまうことは少なくありません。大学の先生から見て「この学科で学びたいと言っているのに、何も勉強していないな」と感じられてしまうのです。
そのため、大学の推薦入試へ向けた対策として、志望学部学科に関連する論文や書籍を一緒に読んで理解しています。
もちろん、大学で学んだ大学生と同程度の視点で考える必要はありませんが、それでも「志望している」のに、その学科で学ぶことについて、一般的なイメージ程度のことしか知らなかったりすれば、審査する大学の先生からは「本当に学びたいのか?」と疑いたくもなるでしょう。
これに対して、志望先で学べる事などの論文や書籍を読み、少しでも大学で学ぶことと同じ方向性の視点を得て、これを元に志願理由や入学後の展望、小論文などを書くことができれば、本当に学びたいという意思は伝わりやすくなるでしょう。何より、このような準備をしていない他の受験生に比べて一歩も二歩もリードすることになるでしょう。
とはいえ、高校生が一人で読むというのは、難しいものです。そもそも、どの程度理解すればよいのかも、分からないかもしれません。私たちは論文等を一緒に読んで、この準備を進めています。
今回読んだ論文
私たちはまず、志望大学や学科に応じて、関連する大学や学科、教員のwebサイトを調べ、研究紹介や一般向けの書籍、論文などをいくつかピックアップします。理系の場合は科研費等も調べて、その先生が今取り掛かっているテーマや、その大学や学科の活発さを判断したりします。
これらのいくつかを生徒と一緒に読みながら、生徒の興味や志望先を少しずつ明確にしていきます。
今回は、社会学や心理学系統の志望者と一緒に、東京家政大学研究紀要にある「現代の若者が持つ社会における暗黙の女性観の探索的検討」を読みました。
現代の若者が持つ社会における暗黙の女性観の探索的検討(東京家政大学研究紀要)
まだ推薦入試に向けた学習を始めて間もない生徒ですから、論文は早いようにも感じましたが、日本語で書かれているが英語要旨があること、調査方法が高校生にも分かりやすい方法であるために、選びました。
内容を理解するベースとしては、例えばシモーヌ・ド・ボーヴォワールが「第二の性」で「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と述べましたが、このような考え方をある程度理解している必要があると思います。
今回一緒に読んだ生徒は高校1年生の頃から「ちくま評論入門」や「ちくま科学評論選」等で現代思想に関する評論を週に2本ほどのペースで読み、議論をしてきましたので、内容についても十分に理解するベースがあると考えました。
この論文の研究目的では、以前からある「女らしさ」に比べ、近年使われる「女子力」という言葉は外見的評価の要素が大きいとされていることに言及されています。
参照文献:「女子力」と「男らしさ・女らしさ」に違いはあるか(田園調布学園大学紀要)
また、女性性と男性性の両方を持ち合わせていることが求められているとあります。
参照文献:成人前期の有職女性における女性性・男性性と職場ストレスの関係(跡見学園女子大学文学部紀要)
これらのように、現代を生きる若者が内在化させてている女性像を検討することを目的とした研究で、これらが若年女性が自分自身にどのような価値を与え、職業や行動を選択させ、ストレスとなりうるのか、また自己効力感にどのような影響を与えるかを考察する論文でした。
一緒に読んだ生徒は著者の率直な書き方は時にドキッとした危うさも感じたようでしたが、女性だからこそ書くことができる説得力や大胆さに爽快感も感じたようでした。
これからオープンキャンパスを迎えますが、この論文の著者や共著の先生がもしいらっしゃったら、ちょっと話をしてみたいと感じたようです。