より明確な志願理由に向けて
大学入試で志願理由や小論文、入学後の展望等を書くとき、高校生が普通に授業を受けて得られる視点だけで書けば、大学で学ぶ人として準備不足と見られてしまうことは少なくありません。大学の先生から見て「この学科で学びたいと言っているのに、何も勉強していないな」と感じられてしまうのです。
そのため、大学の推薦入試へ向けた対策として、志望学部学科に関連する論文や書籍を一緒に読んで理解しています。
もちろん、大学で学んだ大学生と同程度の視点で考える必要はありませんが、それでも「志望している」のに、その学科で学ぶことについて、一般的なイメージ程度のことしか知らなかったりすれば、審査する大学の先生からは「本当に学びたいのか?」と疑いたくもなるでしょう。
これに対して、志望先で学べる事などの論文や書籍を読み、少しでも大学で学ぶことと同じ方向性の視点を得て、これを元に志願理由や入学後の展望、小論文などを書くことができれば、本当に学びたいという意思は伝わりやすくなるでしょう。何より、このような準備をしていない他の受験生に比べて一歩も二歩もリードすることになるでしょう。
とはいえ、高校生が一人で読むというのは、難しいものです。そもそも、どの程度理解すればよいのかも、分からないかもしれません。私たちは論文等を一緒に読んで、この準備を進めています。
今回読んだ論文
今回は、心理学系統の志望者と一緒に、東京家政大学研究紀要にある「出来事の事後の認知的処理が社交不安に与える影響」を読みました。
推薦入試に向けて論文を読み始めて3つめの論文です。
この論文では、内容を理解するベース知識は入門的な現代評論を読んでいれば十分なものでした。今回一緒に読んだ生徒は、準備として「ちくま評論入門」や「ちくま科学評論選」等で現代思想に関する評論を読み、議論をしてきましたので、十分なベースがあります。
ただし専門用語が多くつかわれた論文でしたので、読み方に注意が必要でした。
専門用語などが多い論文では、その文章で書かれている内容を理解しただけでは、十分に理解できていないことは多くあります。
文章が何を言わんとするか、それぞれの用語の結びつきを追っていけば、その文章は理解できるように感じます。けれども、その用語自体が実際に何を意味しているのかを分かっていなければ、文字の上での理解となります。特に、そこから何かを学んび、自分の意見をつくるための材料とする場合は文字の上での理解では、あまり役に立ちません。
文字の上での理解から、実感するような理解、納得するような理解にたどり着くためには、次のような段階を練習します。
1.その用語が何を表しているのかを、できるだけ自分のこれまでの経験の中にある具体的なことで把握しようとする。できれば複数の例が思い浮かべられるように。
2.その具体的なことをまとめて、より広い事柄に適用できるように説明する。(一般化)このとき、できるだけ難しい言葉は使わない。日常的に使うような言葉であればあるほどよい。いくつかの具体が混ざって集約されて、集約するごとにより広い意味を持つ言葉に置き換わっていく感じです。このようなプロセスを経て抽象化が進み、一般化されていきます。
こうして、専門用語の理解が「文字での理解」から、が「自分の実感できる理解」へと進んでいきます。
そして自分の実感できる理解に使われた言葉を使って、論文の内容をまとめていきます。
このようにして、論文がまとめられれれば、そこから得られた知識や考え方は自分の肥やしとなり、意見を作る際に大いに役立てられます。
今回の論文は、内容についての議論よりも、このような理解プロセスのトレーニングに適していました。やや深めに突っ込んで話し合いながら、理解の深め方を練習できました。